パン屋のハード系コーナーで「パン・ド・ロデヴ」という名前を見かけて、バゲットともカンパーニュとも違う四角くていびつな形に、手が伸びずに通り過ぎた経験はないでしょうか。見た目は素朴なのに値札はそれなりで、切り口からのぞく大きな穴ぼこが「これは何のパンなんだろう」という気持ちにさせます。
結論から書くと、パンドロデヴ(パン・ド・ロデヴ)は加水率が80~100%におよぶ高加水パンで、ルヴァン種という発酵種で発酵させたハード系のパンです。粉に対して水をほぼ同量近く入れるため、生地はスプーンですくえるほど柔らかく、成形せずに切りっぱなしで焼かれます。外はパリッと、中はしっとりもちもち。あの穴ぼこは、水の多さがそのまま形になったものです。
この記事では、名前の由来になった南フランスの町の話から、加水率という数字の読み方、ルヴァン種が酸味と香りを作る仕組み、オートリーズとバシナージュという聞き慣れない製法、そしてカンパーニュ・リュスティックとの線引きまで、「なぜそうなるのか」を順番に説明していきます。買ってきたロデヴをどう食べるか、どう保存するかまで一本でわかる構成にしました。
・パンドロデヴの正体と、南フランス・ロデーヴという町の名前がそのままパン名になった理由
・加水率80~100%という数字が、食感・気泡・日持ちに何をもたらすのか
・ルヴァン種、オートリーズ、バシナージュという3つのキーワードの意味と役割
・パン・ド・カンパーニュ、リュスティック、チャバタとの具体的な違い
・買ってきたロデヴをおいしく食べ切るための食べ方と保存の考え方
パンドロデヴとは何か|町の名前がそのままパンになった南フランスのパン

「ロデヴ」は品種名でも製法名でもなく、地名そのもの
パン・ド・ロデヴの「ロデヴ」は、フランス南部・オクシタニー地域圏エロー県にあるロデーヴという町の名前です。つまりこのパンの名前は「ロデーヴのパン」という意味で、クロワッサンやブリオッシュのように形や配合を指す言葉ではありません。フランスのパンには、バゲット(棒)やブール(丸)のように形状から名付けられたものと、カンパーニュ(田舎)のように出どころから名付けられたものがありますが、ロデヴは後者の、しかも町名がそのまま残った珍しいタイプです。
なぜ地名が残ったのかというと、このパンがロデーヴで昔から焼かれてきた伝統的なパンだからです。ある職人が考案して名前を付けた新作ではなく、その土地で当たり前に食べられてきたものが、外に出るときに「ロデーヴのパン」と呼ばれるようになった、という順序です。日本でいえば、讃岐でずっと打たれてきたうどんが県外で讃岐うどんと呼ばれるのと同じ構図だと考えると腑に落ちます。
ここを押さえておくと混乱が減ります。「ロデヴ用の小麦粉」「ロデヴ製法」といった言い方を見かけても、それは地名由来のパンに合わせた粉や作り方という意味であって、法律や規格で定義された名称ではありません。店によって配合も焼き色も少しずつ違うのは、そもそも土地のパンだからです。
タペストリーと巡礼路の町で焼かれてきたパン
ロデーヴは古くからタペストリー産業で栄えた町で、サンティアゴの巡礼路の宿場町でもありました。職人が働き、巡礼者が行き来する場所には、日持ちして腹持ちのよいパンが必要になります。大型で、水分をたっぷり含み、噛みごたえのあるハード系のパンが根付いた背景には、こうした町の性格があります。
この歴史を知っていると、ロデヴの食べ方にも説明がつきます。バターや卵をほとんど使わない配合で、味の主役は小麦とルヴァン種の風味だけ。単体で完結させるパンではなく、スープや料理と一緒に口に運ぶための「食卓のパン」として組み立てられています。豪華な具材を受け止めるためではなく、汁気を吸って料理の一部になるための器に近い存在です。
混同されやすいのが、日本のベーカリーで見かける「ロデヴ生地のサンドイッチ」「ロデヴのフルーツ入り」といったアレンジです。これらは土地のパンの考え方を日本の食べ方に合わせた応用で、本来のロデーヴのパンがそういう形だったわけではありません。どちらが正しいという話ではありませんが、由来を知ったうえで選ぶと、店ごとの個性が読み取りやすくなります。
分類としては「ハード系の高加水パン」
パン・ド・ロデヴをカテゴリーに当てはめるなら、ハード系パンであり、かつ高加水パンです。ハード系とは砂糖・油脂をほとんど使わず、クラスト(外皮)がしっかり焼き締まるタイプの総称で、バゲットやカンパーニュも同じ仲間に入ります。そのハード系のなかで、水の量が飛び抜けて多い一群が高加水パンで、ロデヴはその代表格に数えられます。
栄養面では100gあたりおよそ200~240kcalとされます。砂糖も油脂も入っていないのにカロリーがゼロにならないのは当然として、数字だけ見ればほかの食事パンと大きくかけ離れてはいません。水分が多いぶん、同じ重さなら粉の量は少なくなる計算になります。
ここで注意したいのが、「ハード系=固いパン」という思い込みです。ロデヴは外側こそパリッとしていますが、中身は水を大量に抱え込んでいて、しっとりもちもちしています。焼きたてのクラストの音と、噛んだときのクラムの柔らかさのギャップこそがこのパンの持ち味で、固いパンが苦手という人が敬遠するのはもったいない構造をしています。フランスパンの分類そのものが気になる方は、形と重さで整理した記事も参考にしてみてください。

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外はパリッ、中はもちもち|食感を決めているのは水の量
クラストとクラムで正反対の食感が同居する理由
パン・ド・ロデヴの食感は、クラストがパリッとカリカリ、クラムがもちもちとしっとり、という対照的な組み合わせです。同じ生地なのに正反対の状態になるのは、オーブンの中で外側と内側がまったく別の変化をたどるからです。
表面は高温のオーブンに触れて一気に水分が飛び、糖とアミノ酸が反応して焼き色と香ばしさをまといます。水が抜けた層は薄く固まり、割れば音が鳴るクラストになります。一方、内側は水蒸気で満たされたまま100℃近くにとどまり、水が抜けません。その状態ででんぷんが水を抱え込んで糊化するため、しっとりした柔らかいクラムが残ります。もともと水の量が多いロデヴでは、この内外差がほかのパンより大きく出ます。
だからこそ、ロデヴは買ってきた袋のまま長く置くとおいしさが変わります。クラムから抜けた水分がクラストに移り、あのパリッとした層がしんなりしてしまうからです。食感の対比が持ち味のパンなので、表面を温め直して水分を飛ばす工程を挟むだけで、印象が元に近づきます。
大きく粗い気泡はどうやってできるのか
切ったときに現れる大きく不揃いな穴、いわゆる粗い内相もロデヴの特徴です。食パンのようにきめ細かく揃った気泡とは正反対で、ところどころに指が入りそうな空洞ができます。
この差を生むのも水です。水が少ない生地はグルテンが密に詰まって固く、ガスの通り道が細かく分断されるため、小さな気泡が均一に並びます。逆に水が多い生地はゆるく伸びやすいので、発酵で出たガスが隣同士でつながって大きな空洞に育ちます。cottaの解説でも、加水率60%の生地は「かたく、目が詰まった仕上がり」、70%になると「ベタつくが、もちもち感と気泡が強くなる」と整理されています。ロデヴはそのさらに上をいく水の量なので、気泡が育ち切った状態になるわけです。
加えて、ロデヴは分割したあと成形しません。丸め直したり巻いたりすると、せっかく育った気泡が押しつぶされて抜けてしまいます。切りっぱなしで天板に並べ、そのまま焼くからこそ、発酵で生まれた空洞がそのまま断面に残ります。形がいびつなのは手抜きではなく、気泡を守るための必然です。
味わいは「旨みと軽い酸味」に集約される
ロデヴの味は、小麦の旨みと軽い酸味が上品に同居するところに特徴があります。砂糖も油脂も入っていないため甘さやコクで押してくることはなく、噛むほどに粉の味が出てくるタイプです。酸味は強く尖ったものではなく、後味を軽くする程度のもので、これがシンプルな料理に合わせやすい理由になっています。
この酸味の出どころは、後ほど詳しく見るルヴァン種という発酵種です。乳酸菌や酢酸菌が働くことで、イーストだけで作ったパンにはない複雑な風味が加わります。ただし、酸味の強さは店によって幅があります。ルヴァン種の管理の仕方や発酵時間で変わる部分なので、同じ「ロデヴ」でも味の輪郭は一様ではありません。
買うときのコツとしては、初めての一本なら酸味が穏やかそうな、クラムが白っぽいものから試すのが無難です。ライ麦の配合が多く色が濃いものは酸味も出やすい傾向があります。逆に、料理に合わせたい、チーズと合わせたいという目的がはっきりしているなら、酸味のしっかりしたタイプのほうが満足度は高くなります。
| 分類 | ハード系パン/高加水パン |
| 発祥 | フランス南部ロデーヴ(オクシタニー地域圏、エロー県) |
| 加水率 | 80~100%(90%前後が一般的) |
| 使用する酵母 | ルヴァン種(発酵種) |
| 食感 | クラストはパリッとカリカリ/クラムはもちもち・しっとり |
| エネルギー | 100gあたり約200~240kcal |
| 向いている食べ方 | スープに浸す/トースト/サンドイッチ/バターやジャム/ディップ |

水が多いとパサつきにくくなる、でんぷんの事情
高加水パンには、焼き上げてから時間が経ってもパサつきにくいという性質があります。敷島製パン(Pasco)の解説では、でんぷんの糊化によって水分が保持されやすいためだと説明されています。パンが固くなる現象は、糊化したでんぷんが時間とともに水を手放して元の構造に戻ることで起きるので、そもそも抱え込んでいる水の量が多ければ、変化が表に出るまでに余裕が生まれる、という理屈です。
ここに、ルヴァン種の保水性の高さも重なります。ルヴァン種を使ったパンは日持ちしやすいとされており、水をたくさん入れる製法と、水を抱えておける発酵種の組み合わせが、ロデヴのしっとり感を支えています。
ただし、これは「放っておいても劣化しない」という意味ではありません。水分が多いぶん、高温多湿の環境ではカビが発生しやすいという裏の顔もあります。パサつきにくいことと傷みにくいことは別問題で、ここを混同すると室温放置で失敗します。保存の考え方は後半で整理します。
加水率80%以上が高加水の目安|食パンとの差はどこにあるか

加水率とは「粉に対する水の割合」のこと
加水率は、粉の重さを基準にして水を何割入れたかを示す数字です。粉100に対して水70なら加水率70%、水90なら90%になります。水の総量ではなく粉との比率で表すので、仕込む量が変わっても生地の性格を同じ言葉で比べられるのが便利なところです。
パンの世界で加水率が重視されるのは、これがほぼそのまま生地の硬さ・扱いやすさ・焼き上がりの食感を決めてしまうからです。粉の種類や発酵時間も効きますが、水の量ほど直接的に手ざわりを変える要素はありません。生地をボウルから出した瞬間に、作り手にはその日の加水率が伝わります。
家庭でレシピを見比べるときも、この数字を計算してみると理解が早くなります。強力粉250gに水175mlなら加水率70%、同じ粉に水225mlなら90%です。数字にしてしまえば、「このレシピはベタつくはずだ」と作る前に見当がつきます。
食パン約65%、バゲット・カンパーニュ70~80%、ロデヴは90%前後
実際の数字を並べると、ロデヴの立ち位置がはっきりします。一般的な食パンや菓子パンの加水率は約65%、バゲットやカンパーニュで70~80%、そして高加水パンと呼ばれる領域が80%以上です。パン・ド・ロデヴは80~100%の範囲で、90%前後が一般的とされています。
食パンとロデヴの差は数字上は20ポイント台に見えますが、生地の感触はまったく別物です。加水率65%の生地は手でまとめて丸められますが、90%の生地はボウルを傾けると流れます。この差がそのまま、成形できるかできないか、気泡が揃うか粗くなるかの分かれ目になっています。
| 項目 | 食パン・菓子パン | バゲット・カンパーニュ | パン・ド・ロデヴ |
|---|---|---|---|
| 加水率 | 約65% | 70~80% | 80~100%(90%前後) |
| 生地の状態 | 手で丸められる | ややゆるいがまとまる | 流れるほど柔らかい |
| 気泡 | 細かく均一 | 中くらい・やや不揃い | 大きく粗い |
| 成形 | 丸め・巻きが可能 | 棒状・丸型に成形 | 成形せず切りっぱなし |
| 食感 | ふんわり・きめ細かい | 外は固め、中は詰まり気味 | 外パリッ・中もちもち |
※加水率の数値は敷島製パン(Pasco)の高加水パン解説およびcottaのリュスティック解説をもとに整理。
水を増やすと何がよくなり、何が難しくなるのか
水を増やすことで得られるものは、しっとり・もちもちとした食感、滑らかな口当たり、大きな気泡、そしてパサつきにくさです。加えて、高加水パンは低温長時間発酵と組み合わせることが多く、酵母の香りを抑えて小麦本来の風味を引き立てるという効果も語られています。水が多い生地はゆっくり発酵させても扱えるので、時間をかけた風味づくりと相性がいいのです。
一方で難しくなるのは、まず生地の取り扱いです。柔らかくベタつくため成形が困難で、職人の技術が必要とされます。天板に移す一動作でガスが抜けたり、形が崩れて平べったくなったりします。家庭でロデヴが焼きにくいと言われるのは、配合が特殊だからではなく、この扱いにくさが理由です。
もうひとつが焼き上げたあとの管理です。水分が多いので高温多湿ではカビが発生しやすく、常温で何日も置いておくのに向きません。買った当日に食べ切らないなら、最初から保存の段取りを決めておくほうが安全です。ベタつく生地の扱いに苦戦している方は、原因別に整理した記事も合わせてどうぞ。

「ロデヴは加水率90%」という数字だけを見て、いつものパンのレシピの水を一気に増やすと、まず間違いなく扁平なパンになります。原因は3つです。①粉が吸える限界を超えている(粉の種類によって吸水量が違う)、②全量を一度に加えたためグルテンが形成されず生地がつながらない、③成形しようとして気泡を潰している。水を増やすときは粉の銘柄を変えずに少しずつ上げ、加える順番(次章のオートリーズとバシナージュ)を先に整えるのが順序です。
「水を増やせばロデヴになる」わけではない
実は、加水率という数字はロデヴを説明する入口にすぎません。同じ90%の加水率でも、イーストで短時間に発酵させた生地と、ルヴァン種で時間をかけた生地ではまったく別のパンになります。水の量は食感を、発酵種は風味を担当しているからです。
意外と知られていないのは、高加水にすること自体はそれほど珍しい技術ではない、という点です。チャバタは加水100%とされますし、リュスティックも80%以上が一般的です。にもかかわらずロデヴが特別扱いされるのは、高加水と発酵種と切りっぱなし成形と高温焼成という条件が全部そろって初めてあの味と内相になるからです。
家庭で「ロデヴ風」を目指すなら、優先順位は水よりも先に発酵です。まず発酵種または長時間発酵で風味の土台を作り、そのうえで水を上げていくほうが、途中でできたパンも食べられるものになります。水から攻めると、失敗したときに何が悪かったのか切り分けられません。
ルヴァン種が作る酸味と香り|イーストだけでは出せない風味の正体
ルヴァンはフランス語で「発酵種」という意味
ルヴァン(levain)はフランス語で「発酵種」を指す言葉です。主に小麦粉、ライ麦粉、水を合わせて作った種で、乳酸菌と酵母を生育させたものを言います。市販のドライイーストが「特定の酵母を乾燥させた製品」であるのに対し、ルヴァン種は粉と水と時間から育てる、いわば生き物の集合体です。
混同しやすいのが「天然酵母」という言葉です。日本では自家製の発酵種全般をそう呼ぶ場面が多いのですが、ルヴァン種はそのなかでも小麦粉・ライ麦粉ベースの、フランスパン向けに使われる種を指します。レーズンや果実から起こす種とは、育てる材料も出てくる風味も違います。
そしてルヴァン種は、何度も掛け継いで作られるため菌が安定するという性質を持ちます。毎日粉と水を足して更新していくことで、その店ごとの菌の組み合わせが定着していきます。同じロデヴでも店によって酸味の出方が違うのは、この掛け継がれた種の個性がそのまま出るからです。
ルヴァン(levain)=フランス語で「発酵種」。小麦粉・ライ麦粉・水を合わせ、乳酸菌と酵母を生育させて作るパン種のこと。乳酸菌と酢酸菌が共存するため風味が複雑になり、保水性が高くパンが日持ちしやすくなる。独特の酸味、もちもちした食感、クラストが厚くなるといった特徴をもたらし、ハード系のパンでは欠かせない存在とされる。出典:パンペディア「発酵種の知識」
乳酸菌と酢酸菌が共存するから風味が複雑になる
ルヴァン種の風味の核心は、酵母だけでなく乳酸菌や酢酸菌が一緒に働いているところにあります。酵母はガスを出して生地を膨らませる役ですが、味のほうは菌が作ります。乳酸はまろやかな酸味を、酢酸は鋭い酸味を出し、この配分によってパンの後味が決まります。
結果として、ルヴァン種を使ったパンは小麦の旨みとしっかりした酸味を持ち、噛みしめるほどに旨みが増していきます。焼き上げたときの香りは芳醇だと表現されます。イーストだけで短時間に膨らませたパンは、ふくらみは同じでも味が単線的になりがちで、この複雑さは出ません。
ロデヴの場合、この酸味は主張しすぎない範囲に収められているのが一般的です。味の輪郭を引き締め、油脂や砂糖がないぶんの物足りなさを埋める役割を担っています。だからスープやバターのような単純な相手と合わせても、パンのほうが負けずに存在感を残します。発酵種そのものをもう少し知りたい方は、酵母の種類を整理した記事が入口になります。

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保水性が高いから日持ちする、という副産物
ルヴァン種にはもうひとつ、保水性が高いという実利があります。乳酸菌や酢酸菌が共存することで奥深い風味になると同時に、パンが日持ちするようになる、と説明されています。水を抱え込む力が強いので、焼き上がってからの乾燥が進みにくいわけです。
ロデヴはもともと加水率が高いパンなので、ここにルヴァン種の保水性が乗ることで、二重に水を保持する構造になります。買ってきた翌日でも、クラムが乾いてボロボロになるというより、少し締まった程度で済むことが多いのはこのためです。
ただし注意点もあります。日持ちするとはいえ、それは乾燥に対して強いという意味で、カビに対して強いわけではありません。水分が多い環境は微生物にとっても居心地がよいので、暖かい季節に袋に入れたまま置くのは避けたほうが無難です。乾燥とカビは別のリスクとして分けて考えてください。
クラストが厚くなるのもルヴァンの仕業
ルヴァン種を使ったパンには、独特の酸味やもちもちした食感に加えて、クラストが厚くなるという特徴があります。ロデヴのあの噛みごたえのある皮も、単に高温で焼いたからではなく、種の性質が関わっています。
仕組みとしては、発酵種による酸性寄りの生地と、長めの発酵で進む酵素反応が、焼成時の表面の状態を変えるためです。イーストだけで作った生地より皮が薄く割れにくく、しっかりした層になります。ハード系パンでルヴァン種が欠かせないとされる理由のひとつがここにあります。
食べるときの実用的なポイントとしては、クラストが厚いパンは温め直しの効果が出やすい、ということです。しんなりしたクラストに一度熱を通して水分を飛ばすと、焼きたてに近い音と歯ざわりが戻ります。薄い皮のパンより復活の幅が大きいので、翌日以降でもあきらめる必要はありません。
オートリーズとバシナージュ|ベタつく生地を扱える形にする二段構え
オートリーズ=粉と水を混ぜて休ませる下準備
ロデヴ特有の製法として知られるのが、オートリーズとバシナージュの組み合わせです。まず前半のオートリーズは、粉と水を混ぜて休ませる工程を指します。こねずに、ただ混ぜて放置する時間です。
この時間に何が起きているかというと、粉の粒子が水を吸い、グルテンを形成する準備が静かに進みます。小麦のタンパク質は水と出会って初めて網目を作り始めるので、こねる前に水を行き渡らせておけば、そのあとの作業が短くて済みます。力任せにこねる時間を減らせるぶん、生地の温度が上がりすぎるのも防げます。
やりがちな失敗は、この段階でしっかり混ぜようとして早々にこねてしまうことです。オートリーズは「待つ」工程であって「作る」工程ではありません。粉気がなくなる程度に合わせたら、あとは手を出さずに置いておくのが正解です。ここで頑張ってしまうと、次のバシナージュで水が入らなくなります。
バシナージュ=グルテンができた後から水を足す
後半のバシナージュ(Bassinage)は、グルテンが形成された後に水を足す工程です。一度に全量の水を加えるのではなく、段階的に水を生地になじませることで、高加水でも扱える生地を作ることができます。
順番が重要なのは、グルテンの網ができてから水を入れると、網が水を抱え込む形になるからです。最初から水を全部入れてしまうと、粉と水が薄まった状態で混ざり、網がうまく育ちません。結果として、生地はただ水っぽいだけのゆるい塊になり、膨らむ力を失います。同じ加水率でも、入れる順番で別物になるのはこのためです。
実際の配合例としては、水分量90%のうち、ミキシング用に70%、バシナージュ用に20%を分けるという分け方が挙げられています。つまり最初は普通のハード系パン程度の水でしっかり生地を作り、そのあとで残りを足していく形です。作業としては、手を使うか、ドレッジやヘラをボウルと生地の間に滑り込ませて、水と生地をなじませていきます。
成形しないのは、気泡を守るため
ロデヴは分割したあと、成形せずに切りっぱなしで焼き上げます。パン作りに慣れているほど「丸めないで大丈夫なのか」と不安になる工程ですが、これは省略ではなく積極的な選択です。
理由は単純で、成形は気泡を抜く作業だからです。丸めたり巻いたりガス抜きをしたりする一連の動作は、大きな気泡を潰して均一にし、張りを出すためにあります。きめ細かい食パンには必要でも、大きく粗い内相を目指すロデヴにとっては逆効果になります。せっかく育った空洞を、わざわざ手で消してしまうことになるからです。
さらに現実的な事情として、加水率90%前後の生地は、そもそも丸められません。手に持てば指の間から落ちていくような状態なので、成形しようとする行為自体が生地を痛めつける結果になります。切りっぱなしという方法は、この生地に対して唯一無理のない選択肢だと考えるとわかりやすいはずです。
高加水の生地で最も気泡が失われるのは、分割して天板へ移す一瞬です。やりがちなのは、カードで押し切るように分割する/持ち上げて手のひらで受け止める/天板に落として形を整える、の3つ。いずれも空洞を押し出してしまい、焼き上がりが平たくなります。打ち粉をした作業台に生地をあけ、カードは押さずに引くように切り、なるべく広い面で受けてそのまま天板に置く。触る回数を減らすほど断面の穴は残ります。
高温で一気に焼くから窯伸びする
焼成は高温で一気に、が基本です。焼成温度の一例として上火240℃・下火230℃という数字が挙げられています。取り扱いの困難な生地をカットし、高温のオーブンで一気に膨らませて焼くのがロデヴの特徴だと説明されています。
なぜ高温なのかというと、生地の中の水を短時間で蒸気に変えて、内側から押し広げる必要があるからです。水が多い生地は、熱が入ると一気に膨張する余力を持っています。この立ち上がりを窯伸びと呼びますが、低めの温度でじわじわ加熱すると、膨らむ前に表面が固まってしまい、生地が広がる方向に逃げて平たいパンになります。
バシナージュが効いてくるのもここです。後から水を足した生地は窯伸びしやすく、ボリュームが出ると説明されています。つまり、加水を段階的に行う目的は、扱いやすさの確保だけでなく、焼成時の伸びを引き出すことにもあります。製法の各工程が焼き上がりの一点に向かって組まれているのが、このパンの面白いところです。
カンパーニュ・リュスティック・チャバタとの違いを整理する
パン・ド・カンパーニュとの違いは水と気泡
ロデヴと最も比べられるのがパン・ド・カンパーニュです。カンパーニュはフランス語で「田舎」を意味し、かつてパリにパンを売りに来ていた郊外産のパンを指します。昔は穀物や果実から発酵種を作っていたため酸味があり、シンプルな丸型やナマコ型で、ライ麦粉や全粒粉を約10%混ぜることが多いパンです。
違いを一言でいえば、水の量と気泡の大きさです。カンパーニュの加水率は70~80%で、ロデヴより低め。そのぶん気泡もロデヴより小さめになります。味の方向性も、ロデヴが「高い水分量と多くの気泡によるもちもち感」を持ち味にするのに対し、カンパーニュは「素朴な味わいと酸味」が特徴とされます。
選ぶときの目安としては、スープに浸して汁気を吸わせたいならロデヴ、しっかりした噛みごたえで具をのせたいならカンパーニュ、という使い分けが現実的です。カンパーニュはライ麦や全粒粉が入るぶん風味に厚みがあり、チーズやパテのような強い相手にも押し負けません。
リュスティックとの違いは発酵種と加水率
リュスティックはフランス語で「田舎風の」という意味で、多加水の生地を分割してから成形せずに焼き上げたパンです。切りっぱなしで焼く、不揃いな形、大きな気泡、外はパリッ中はもっちり——並べてみると、ロデヴとの共通点がかなり多いことに気づきます。
では何が違うのかというと、ひとつは加水率の水準です。リュスティックは80%以上、一般的には80%前後とされ、バゲットの加水量に10%前後の水が増えるとリュスティックという名前になる、という説明もあります。ロデヴはそこからさらに上の90%前後が一般的なので、水の量では一段違います。
もうひとつが発酵種です。ロデヴはルヴァン種を使うのが前提であるのに対し、リュスティックはドライイーストで作られる場合もあります。ここが風味の差になります。形も製法も似ているのに、ロデヴのほうに酸味と複雑な香りがあるのは、水ではなく種の違いによるところが大きい、ということです。
| 項目 | パン・ド・ロデヴ | パン・ド・カンパーニュ | リュスティック |
|---|---|---|---|
| 名前の意味 | ロデーヴ(地名) | 田舎 | 田舎風の |
| 加水率 | 80~100%(90%前後) | 70~80% | 80%以上(80%前後) |
| 発酵種 | ルヴァン種 | サワー種・ルヴァン種の変種など | ドライイーストの場合もある |
| 成形 | 切りっぱなし | 丸型・ナマコ型に成形 | 切りっぱなし |
| 気泡 | 大きく粗い | ロデヴより小さめ | 大きな気泡 |
| 味の方向 | 旨みと軽い酸味 | 素朴な味わいと酸味 | 小麦の風味が中心 |
チャバタは加水100%、位置関係で覚える
高加水パンの話題でもうひとつ名前が挙がるのがチャバタです。高加水パンの事例としては、パン・ド・ロデヴが90%以上、リュスティックが80%以上、チャバタが加水100%という並びで整理されています。数字の上ではチャバタが最も水の多いグループに入ります。
ここで大事なのは、加水率の順位がそのままおいしさの順位ではない、ということです。水が多いほど気泡は大きく口当たりは滑らかになりますが、同時に生地の保持力は下がり、焼き上がりが平たくなるリスクも上がります。それぞれのパンは、水の量と食べ方と焼き方のバランスがとれた地点に落ち着いています。
覚え方としては、「食パン約65%→バゲット・カンパーニュ70~80%→リュスティック80%前後→ロデヴ90%前後→チャバタ100%」という一本の線を思い浮かべるのがおすすめです。この線の上のどこにいるかがわかれば、初めて見る名前のパンでも、断面の気泡を見ただけでおおよその性格を推測できるようになります。
パンドロデヴの食べ方と保存|スープに浸すのが定番になる理由
スープに浸すと、気泡が旨みを吸い込む
ロデヴの食べ方でまず挙げられるのがスープに浸す方法です。気泡の多いロデヴがスープの旨みを吸い込んで、しっとりと味わえる、と説明されています。これは食べ方の好みではなく、構造的な相性の話です。
大きな空洞がたくさん空いた内相は、液体を受け止める容積が大きく、しかも一気に崩れにくい。きめの細かいパンをスープに浸すと表面から一様にふやけて形を失いますが、粗い気泡のパンは空洞に汁が入り込み、骨格になっている部分は残ります。だから浸してもベチャッとせず、しっとりした状態でとどまります。
やるときのコツは、厚めに切ることと、浸す時間を短く保つことです。薄切りにすると骨格が足りず、すぐに崩れます。ポトフやミネストローネのような具のあるスープ、あるいはオリーブオイルとともに、というのが定番の組み合わせです。ロデヴの酸味はスープの塩気と油脂をまとめる働きをします。
トースト、サンドイッチ、バターやジャム
そのほかの食べ方としては、トースト、サンドイッチ、バターやジャムを塗る、ディップしながら食べる、テーブルパンとして料理に添える、といった使い方が挙げられます。要するに、食事のどの場面にも入れられる汎用性の高いパンです。
トーストにするときは、クラストの水分を飛ばすことを意識してください。前述のとおりロデヴは時間が経つとクラムの水分がクラストへ移動するので、焼き直すことであのパリッとした層が戻ります。バターは焼いた直後に、まだ熱があるうちに置くと断面の気泡に落ちていきます。
サンドイッチにも適しているとされるのは、旨みと軽い酸味が上品で、シンプルな味わいが料理に合わせやすいからです。ただし気泡が大きいぶん、水気の多い具材は穴から落ちます。ハムやチーズ、パテのように面で接する具材のほうが扱いやすく、トマトやドレッシングをたっぷり使いたいときは、具材側の水気を先に切っておくと失敗しません。
保存は「乾燥」と「カビ」を分けて考える
ロデヴは高加水パンなので、乾燥に対しては強い一方、高温多湿ではカビが発生しやすいという弱点を持ちます。この2つを同じ対策でまとめようとすると失敗します。
当日中に食べ切るなら、袋の口を軽く閉じて室温に置いておけば十分です。問題は翌日以降で、暖かい季節に袋に入れたまま置くのは、水分の多いパンにとって条件がよくありません。食べ切れないぶんは、買ってきたその日のうちに食べる量ずつ切り分けて冷凍に回すのが、味の面でも安全の面でも合理的です。
覚えておきたいのは、パンを固くする現象は冷蔵の温度帯で最も進むという点です。「傷まないように冷蔵庫へ」という判断が、結果としてパサつきを早めることがあります。冷凍と解凍の考え方は一本の記事に整理してあるので、あわせて確認してみてください。

買ってきた食パンが3日目にはパサついている。かといって冷蔵庫に入れると、翌朝にはもっと硬くなっている気がする。冷凍はなんとなく良さそうだけれど、解凍の仕方が分か…
食べる人のタイプ別・ロデヴの取り入れ方
最後に、どんな人にどう向いているかを整理しておきます。スープや煮込みをよく作る人は、迷わずロデヴが合います。気泡が汁を吸う構造は、まさにこの食卓のためにあります。添えるだけで一品増えたような満足感が出ます。
サンドイッチを自分で作る人には、旨みと軽い酸味が具材の邪魔をしない点が効きます。ただし気泡の穴から具が落ちるので、厚めに切り、水気の少ない具材を選ぶのがコツ。朝食にトーストを食べる人なら、食パンから切り替えるというより、週末の一日だけロデヴにする使い方が現実的です。焼き直したときの食感の変化が大きいパンなので、時間に余裕がある日のほうが持ち味を楽しめます。
ハード系パンが初めての人は、いきなり丸ごと一本を買わず、カット売りやハーフサイズから始めるのが安全です。酸味や噛みごたえの好みは個人差が大きく、合わないまま食べ切るのはつらい作業になります。少量で試して、合うとわかってから量を増やせば十分です。
まとめ|パン・ド・ロデヴは「水」と「発酵種」で読み解ける
パン・ド・ロデヴという名前は難しそうに聞こえますが、分解してみれば「南フランスの町で焼かれてきた、水をたっぷり入れた発酵種のパン」というだけの話です。粉に対して水をほぼ同量近く入れるから気泡が大きくもちもちになり、ルヴァン種を使うから軽い酸味と複雑な香りが出て、生地が柔らかすぎるから成形せずに切りっぱなしで焼く。ひとつの選択が次の選択を決めていて、全部つながっています。この連鎖が見えるようになると、ほかのハード系パンを見たときにも、断面の気泡から加水率と製法をおおよそ読み取れるようになります。
最初の一歩としておすすめしたいのは、次にパン屋でロデヴを見かけたら、厚めに切ってスープに浸してみることです。気泡が汁を吸い込んで、パンが料理の一部に変わる感覚がわかれば、このパンがなぜ食卓のパンと呼ばれるのかが体感として理解できます。そのうえで、酸味の出方や気泡の大きさを店ごとに比べていけば、自分の好みの一軒が見つかるはずです。
※パンの配合や焼成条件は店や作り手によって幅があります。製品ごとの詳細は各メーカー・販売店の公式情報をご確認ください。

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