パン作りの道具をひととおり揃えようとして、最初につまずくのが食パン型です。ネットで調べると専用の1斤用型は1,500円~2,000円ほど。まだ焼けるかどうかもわからないうちに出す金額としては、なかなか勇気がいります。そこで「ダイソーに食パン型はないだろうか」と製菓コーナーを歩き回ることになるわけです。
結論から言うと、探すべきなのは「食パン型」という名前の商品ではありません。ダイソーの製菓コーナーにあるパウンドケーキ型やスクエア型のケーキ焼型が、そのまま食パンの型として使えます。ダイソーのパウンド型なら110円~330円で手に入るので、専用型を買う前の試し焼きには十分な選択肢です。
ただし、代用には代用なりの理屈があります。型の材質によって焼き色のつき方が変わり、空焼きが必要な型と、空焼きをすると加工が壊れてしまう型があります。生地の量も型に合わせて調整しないと、あふれるか、逆にスカスカになるかのどちらかです。この記事では、ダイソーで手に入る3つの型のスペックを並べたうえで、材質・空焼き・生地量という3つの分かれ道を順番に整理していきます。
・ダイソーの製菓コーナーで食パンの型として使える3つの商品とスペック
・食パン型の「1斤」がどう決まっているか、型のサイズが揃っていない理由
・シリコン・アルミ・フッ素樹脂加工で焼き色が変わる仕組み
・空焼きが必要な材質と、空焼きをしてはいけない材質の見分け方
・パウンド型で焼くときの生地量の考え方と、避けたい代用品
ダイソーで食パン型を探すと、たいてい別の売り場にたどり着く

「食パン型」という札の下を探しても見つからない
ダイソーの調理器具コーナーには、フライパンから計量スプーンまでひととおり並んでいます。ところが「食パン型」という名前で置かれている専用品を見つけるのは簡単ではありません。理由はシンプルで、食パン型は蓋つきの箱状構造という特殊な形をしていて、均一価格ショップの価格帯では作りにくい道具だからです。専用型が1,500円~2,000円という価格になっているのも、材質と構造の両方にコストがかかるためです。
そこで目を向けたいのが製菓コーナーです。パウンドケーキ型とケーキ焼型は、どちらも「箱状の型に生地を入れてオーブンで焼く」という点で食パン型とまったく同じ役割を果たします。ダイソーの公式オンラインストアでも、パウンドケーキ型の用途に「パン、ケーキ、スフレ作り」と明記されています。つまりメーカー側もパン作りへの使用を想定している型です。
探すときのコツは、売り場を「型の名前」ではなく「形」で見ることです。細長い箱型ならパウンドケーキ型、正方形に近い浅い箱ならスクエア型。この2種類が食パン作りの代用先になります。名前に引きずられて調理器具コーナーだけを往復していると、目当てのものが製菓コーナーに転がっていることに気づけません。
代用先になるのは3つの型
ダイソーの製菓コーナーで、パン生地を入れて焼ける型は主に3種類です。1つ目がシリコーンパウンドケーキ型(21cm)で220円。2つ目がアルミパウンドケーキ型S(6枚入)で110円。3つ目がケーキ焼型(スクエア)23cmで200円です。それぞれ材質が違い、材質が違うということは焼き上がりも違うということです。
3つを並べると、価格差はごくわずかです。ところが材質はシリコーンゴム、アルミニウム、炭素鋼100%+フッ素樹脂加工と、まったく別物が揃っています。この材質の差が、焼き色・型離れ・お手入れの手間・繰り返し使えるかどうかの全部に効いてきます。「どれでも同じだろう」と手前にあるものを掴むと、焼き上がりで後悔することになります。
選び方の実務的な結論を先に言うと、まず1回試したいだけならアルミ型、繰り返し使って型離れの失敗を減らしたいならシリコン型、しっかり焼き色をつけてちぎりパンのような形にしたいならスクエア型です。この3つの使い分けは記事の後半でスペックを並べて詳しく整理します。
専用型との価格差は、試し焼きのハードルを大きく下げる
ダイソーのパウンド型なら110円~330円で手に入り、専用の1斤用型は1,500円~2,000円ほどします。この差は単なる節約の話ではありません。パン作りを始めたばかりの段階では、「膨らまなかった」「生焼けだった」という失敗が続くのが普通です。そのときに高い型を買っていると、失敗のたびに「道具が悪いのか、自分の手順が悪いのか」で悩むことになります。
安い型で何度か焼いてみると、失敗の原因が型ではなく発酵や捏ねにあることがはっきりします。逆に、材質による焼き色の違いを体感してから専用型を買えば、「なぜアルタイトの型が業務用に選ばれているのか」も納得したうえで選べます。道具に投資するタイミングを後ろにずらせるのが、ダイソーの型を使う最大の利点です。
注意したいのは、安さと引き換えに失われるものもあるという点です。専用の食パン型には蓋があり、蓋をして焼けば四角い角食パンになります。ダイソーの型には蓋がないので、上部が山になった山型のパンにしかなりません。この違いを理解したうえで選ぶことが大事です。

ダイソーの型で焼けるのは「ミニ食パン」
もうひとつ前提として押さえておきたいのが、サイズです。パウンド型を使うメリットは「食べ切りサイズのミニ食パン」が作れることで、普通の食パンよりも少し小ぶりになります。1斤の食パンをそのまま再現できるわけではありません。
ただしこれはデメリットとは限りません。その分火の通りが早く、初心者でも生焼けの失敗が少ないという利点があります。パン作りの失敗で多いのが「表面は焼けているのに中が生」という状態で、これは型が大きいほど起きやすくなります。小ぶりな型は、この一番つまずきやすいポイントを構造的に回避してくれます。
また、1人暮らしや2人暮らしなら、1斤まるごと焼いても食べきる前に固くなってしまいがちです。焼きたてを食べきれるサイズで焼けることは、実用面でも意味があります。「小さいから劣る」ではなく「小さいから扱いやすい」と捉えると、代用型の位置づけがはっきりします。
そもそも「1斤」とは何を指す言葉なのか
1斤は重さのルールであって、型の寸法ではない
食パン型を選ぶとき、多くの人が「1斤用」「1.5斤用」という表示を頼りにします。ところがこの「斤」という単位は、もともと型の大きさを表す言葉ではありません。日本パン公正取引協議会が定める包装食パンの表示ルールで、1斤を340g以上、510g以上を1.5斤と定めているのが出発点です。つまり斤は焼き上がったパンの重さの下限を示す基準です。
ここが混乱のもとになります。重さの下限が決まっているだけなので、340gちょうどのパンも、それより重いパンも、どちらも「1斤」を名乗れます。パンの重さは配合の水分量や焼成でどれだけ水分が飛ぶかで変わるため、同じ型を使っても焼き上がりの重さは一定になりません。「1斤の型で焼けば必ず1斤のパンになる」という関係ではないわけです。
この理屈を知っておくと、ダイソーのパウンド型に「何斤用」という表記がないことも自然に理解できます。パウンド型は重さの基準ではなく、寸法で作られている道具だからです。代用するときは斤数ではなく、型の実寸と生地の量を見て判断することになります。
斤=焼き上がった食パンの重さを示す表示区分。包装食パンの表示に関する公正競争規約で決められたルールで、1斤は340g以上、1.5斤は510g以上とされています。型の寸法を規定した数値ではないため、「1斤用」と書かれた型でもメーカーごとに大きさが違います。
1斤型の実寸と容量を知っておくと比較が早い
それでも比較の物差しは必要なので、市販の1斤型の代表的な寸法を見ておきます。1斤型の内寸は95×209×H86mm、外寸は105×220×H87mm、底寸は82×202mmで、容量は満水約1500mlです。この「満水約1500ml」という数字が、実は一番使いやすい物差しになります。
なぜ容量が便利かというと、型の形が違っても中に入る生地の量は容積で比べられるからです。長さと幅と高さを個別に比べても、パウンド型と食パン型では形状が違いすぎて判断できません。ところが容積なら「この型は1斤型のどれくらいの入れ物か」を一発で見当がつけられます。
ダイソーのシリコーンパウンドケーキ型(21cm)は21cm×9.5cm×6cmです。幅は1斤型の内寸とほとんど変わりませんが、高さが明らかに足りません。つまり底面積は近いのに、縦に伸びる余地が少ない型ということです。ここに1斤ぶんの生地を入れると確実にあふれます。この判断ができれば、生地量の調整という次の話に自然につながります。
1.5斤型はもっと縦に伸びる形をしている
比較のために1.5斤型も見ておきましょう。1.5斤型の内寸は109×213×H119mm、外寸は121×225×H120mm、底寸は106×205mmで、容量は満水約2600mlです。長さは1斤型とさほど変わらないのに、高さが大きく増えているのがわかります。
この形の違いには理由があります。食パンは発酵で縦方向に膨らむ食べ物なので、容量を増やしたいときは横に広げるより上に伸ばすほうが理にかなっています。横に広げると1枚あたりの断面が大きくなりすぎて、トースターに入らない、サンドイッチに使いにくいといった実用上の不便が出ます。だから斤数が増えると背が高くなるわけです。
この点でも、パウンド型による代用は「高さが取れない」という制約を抱えています。だからこそ生地量を減らして、型の中で無理なく膨らませる設計にする必要があります。1.5斤で焼くときの配合や発酵の考え方は、下記の記事で詳しく整理しています。

同じ「1斤」でもサイズはバラバラという現実
ここまで具体的な寸法を挙げてきましたが、実はこれが唯一の正解ではありません。『一斤』と売られている型の場合でも、実際のサイズはバラバラです。特にホームベーカリーで作る場合、機種によってパンケースのサイズが異なるため、同じ「1斤」でも仕上がりサイズが変わることがあります。
さらにややこしいのが、ホームベーカリーの「1斤」は粉の量で表現されることです。一般的にホームベーカリーでいう『一斤』の粉量は250gとされています。焼き上がりの重さで定義される斤と、投入する粉の量で言う斤が、同じ言葉で混在しているわけです。レシピを検索して数値が食い違うように見えるのは、この2つが混ざっているためであることが少なくありません。
実務上の対策はひとつで、購入前に取扱説明書やメーカーのサイトで、パンケースの内寸を確認しておくと安心です。ダイソーの型を使う場合も同じで、商品パッケージや公式オンラインストアの寸法表記を見て、手持ちのレシピの生地量と照らし合わせるのが確実です。「1斤」という言葉を信用しすぎないほうが、結果的に失敗が減ります。
110円・200円・220円、3つの型のスペックを並べて選ぶ

アルミパウンドケーキ型Sは、まず試したい人向け
アルミパウンドケーキ型S(6枚入)は110円で、サイズは8.6cm×16cm×4.5cm、材質はアルミニウム、オーブンレンジ対応です。特徴は6枚入りという点で、1枚あたりの単価が非常に低くなります。焼いたパンを型ごとラッピングして人に渡せる大きさで、Sサイズ(8.6cm×16cm×4.5cm)のパウンドケーキ型はラッピングしやすい大きさとして評価されています。
アルミという材質にも意味があります。アルミ型は熱伝導が高いため、焼き上がりがきれいに仕上がり、型離れもいいので、油脂を塗る手間もありません。焼けムラなく均一に焼けるという性質は、オーブンの癖にまだ慣れていない段階ではかなり助かります。しかも空焼きが不要なので、買ってきてすぐ使えます。
注意点はやわらかさです。やわらかいため焼く前に指で強く持つと変形してしまうことがあります。生地を入れるとき、型の縁を強くつまむと形が崩れて、焼き上がりの断面もゆがみます。天板の上に置いてから生地を流し込み、移動させるときは底を支えて持つ。この持ち方を守るだけで変形はほぼ防げます。
シリコーンパウンドケーキ型21cmは、型離れで悩みたくない人向け
シリコーンパウンドケーキ型(21cm)は220円で、サイズは21cm×9.5cm×6cm、材質はシリコーンゴム、耐冷温度は-30℃、耐熱温度は230℃です。オーブン・レンジ・食器洗い機のすべてに対応していて、キャンディーカラーの複数色展開になっています。
最大の利点は型離れです。シリコーン製は油を塗る必要がないので手軽に使用でき、軽くて使いやすいです。変形させることができるため、型外れしやすいのがポイントです。焼き上がったパンを取り出すとき、型を外側からぐにゃりと押せば、力を入れずに外れます。金属型で「引っかかって側面がえぐれた」という失敗をしたことがある人には、この一点だけで乗り換える価値があります。
お手入れも簡単です。シリコンは耐熱性、耐凍性があり、型離れも良くお手入れも簡単です。油を塗る必要がなく、水で簡単に洗えます。ただし後述するとおり、熱伝導があまりよくないので焼き色をしっかりつけたい場合には金属製がおすすめという弱点があります。焼き色を優先するか、扱いやすさを優先するかの選択になります。
ケーキ焼型スクエア23cmは、ちぎりパンを焼きたい人向け
ケーキ焼型(スクエア)23cmは200円で、外寸は23cm×22cm×5.5cm、材質は炭素鋼100%+フッ素樹脂加工、耐熱温度は240℃です。ダイソーの商品説明では、ケーキ焼型(スクエア)23cmは、表面フッ素樹脂加工で焦げ付きにくく、型からはがれやすいパンやケーキ作りに適した商品ですと紹介されています。
この型は細長いパウンド型と違い、正方形に近い浅い箱型です。そのため食パンというより、丸めた生地を並べて焼くちぎりパンや、台湾カステラのような生地に向いています。この23センチのスクエア型はお菓子作りに大活躍なサイズ感で、スポンジケーキやブラウニー、ちぎりパンを焼くのに特におすすめの型だと評価されています。
焼き色の面では3つの中で最も有利です。フッ素樹脂加工により熱伝導が高く、きれいに焼けて、型離れも良好。お手入れも簡単です。ただし炭素鋼にフッ素樹脂加工という組み合わせは、空焼きの扱いを間違えると加工を壊してしまいます。この点は次のセクションで詳しく扱います。
| 項目 | アルミパウンド型S | シリコーンパウンド型 | ケーキ焼型スクエア |
|---|---|---|---|
| 価格 | 110円(6枚入) | 220円 | 200円 |
| サイズ | 8.6cm×16cm×4.5cm | 21cm×9.5cm×6cm | 23cm×22cm×5.5cm(外寸) |
| 材質 | アルミニウム | シリコーンゴム | 炭素鋼100%+フッ素樹脂加工 |
| 耐熱温度 | オーブンレンジ対応 | 230℃(耐冷-30℃) | 240℃ |
| 焼き色 | 熱伝導が高く均一に焼ける | つきにくい | 熱伝導が高くきれいに焼ける |
| 空焼き | 不要 | 不要 | 不要(加工を傷めるため) |
| 向いている用途 | 試し焼き・ラッピング前提 | 繰り返し使う・型離れ重視 | ちぎりパン・焼き色重視 |
3つのどれを選ぶかは「何が怖いか」で決まる
スペックを並べても迷うときは、自分が何を一番怖がっているかで決めると早く決まります。「そもそもパンが焼けるかわからない」という段階なら、6枚入りで110円のアルミ型です。失敗しても心理的なダメージが小さく、6枚あるので配合を変えて何度も試せます。
「前に型から取り出すときに崩した」という記憶がある人は、220円のシリコン型です。油を塗る工程そのものがなくなるので、準備の手間も減ります。繰り返し洗って使えるので、月に何度も焼く人ほど元が取れます。ただし側面の焼き色は淡くなることを承知しておく必要があります。
「見た目のきれいなパンを焼きたい」「ちぎりパンを作りたい」なら200円のスクエア型です。フッ素樹脂加工で焼き色がつき、型離れも良い。ただし加工には寿命があるので、扱いを丁寧にするほど長持ちします。この3択は優劣ではなく、優先順位の違いだと考えてください。
同じ生地なのに焼き色が変わる、材質の話
熱伝導率が違うと、型に触れている面の色が変わる
パンの焼き色は、オーブンの熱が生地に伝わることでつきます。ところが熱の伝わり方には2つの経路があります。ひとつは庫内の熱が空気を通じて生地の表面に届く経路、もうひとつは型が熱を受け取って、型と接している面に直接伝える経路です。後者の効率を決めるのが材質の熱伝導率です。
シリコンの熱伝導率は低く、スチールは高く、スチールにアルミメッキを施したアルタイトが最も高いという序列になっています。この差がそのまま焼き色の差になります。シリコン型は熱伝導率が低いため焼き色がつきにくく、型と接している面には焼き色が付きにくいという結果になります。一方でスチール型は色づきがよく十分きれいに焼き上げることができます。
ここで大事なのは、これが「失敗」ではないという点です。上面はオーブンの輻射熱で普通に色づくので、山型の頭はきちんと焼けます。色がつかないのは型に接している側面と底だけです。仕組みを知らずに「うちのオーブンが弱いのか」と温度を上げてしまうと、上面だけ焦げて中は生という別の失敗を招きます。
熱伝導率=物質がどれだけ熱を伝えやすいかを示す性質。パン型では、熱伝導率が高い材質ほど型に接した面へ素早く熱を渡すため焼き色がつきやすく、低い材質ほど型が熱をため込まずに焼き色が淡くなります。パン型の材質では、シリコンが最も低く、スチール、アルタイトの順で高くなります。
シリコン型で側面が白いまま焼き上がる、という失敗
実際に起きやすいのがこの失敗です。レシピどおりの温度と時間で焼いたのに、型から出したら側面が白っぽく、上面だけがこんがりしている。原因は焼成不足ではなく、シリコンの熱伝導率が低いことにあります。
対処法は2つあります。ひとつは、シリコン型を天板に直接置くのではなく、あらかじめ天板を予熱しておいて熱い天板の上に型を載せる方法です。底面から入る熱が増えるので、底の色づきが改善します。もうひとつは、割り切って「白い側面のパン」として受け入れる方法です。サンドイッチにするならむしろ耳が固くならず扱いやすい、という見方もできます。
やってはいけないのが、焼き色をつけようとして耐熱温度を超える温度で焼くことです。シリコーンパウンドケーキ型の耐熱温度は230℃です。この上限を超えるとシリコン自体が傷みます。焼き色が欲しいなら温度を上げるのではなく、型を替えるのが正しい解決策です。
シリコン型の側面に色がつかないのを「焼き足りない」と判断して温度や時間を足すと、上面が焦げて中が生焼けという二重の失敗になります。側面の淡い色は材質による正常な結果です。焼き色を優先するなら温度をいじらず、金属製の型に替えてください。
フッ素樹脂加工の炭素鋼は、扱いやすさと焼き色の中間点
ケーキ焼型(スクエア)23cmが採用している炭素鋼100%+フッ素樹脂加工は、金属の熱伝導とコーティングの型離れを両立させた構成です。炭素鋼が熱をしっかり伝えるので焼き色がつき、表面のフッ素樹脂が生地の張りつきを防ぎます。フッ素樹脂加工により熱伝導が高く、きれいに焼けるとされているのはこの理屈です。
ただし、この構成には寿命があります。フッ素加工は次第に剥がれてくることがあり、あまり長くは使えません。金属ヘラでこそげ落とす、金属たわしで擦る、乾いた状態で強火にかける。こういった扱いは加工の寿命を縮めます。シリコンヘラを使い、洗うときはやわらかいスポンジで、というのが基本です。
逆に言えば、丁寧に扱えば繰り返し使えて、焼き色もつく。3つの中では「バランス型」の位置づけです。パン作りを続けるつもりがあり、かつ道具の手入れが苦にならないなら、この型が最も長く付き合える選択になります。
業務用にアルタイトが選ばれる理由
参考として、パン屋で使われている型の材質も知っておくと視野が広がります。スチールにアルミメッキしたアルタイトは熱まわりが良く均一に熱が伝わるため、焼けムラなどが起きにくいです。業務用に主に使われているパン型です。
なぜプロが最も熱伝導の高い材質を選ぶかというと、焼成時間を短くできるからです。同じ焼き色に到達するまでの時間が短ければ、生地から水分が抜けすぎる前に焼き上がります。結果として、外はしっかり色づき、中はしっとりというパンになります。焼き色と水分保持は、材質を通じてつながっている話なのです。
家庭用の型を選ぶときも、この視点は使えます。「焼き色がつきにくい型は、色をつけようとして長く焼くことになり、その分パサつきやすい」という関係です。ダイソーの型で焼いたパンが少し乾いた印象になるなら、原因は配合ではなく型の熱伝導かもしれません。オーブンそのものの癖については、下記の記事でも扱っています。

レシピどおりに材料を量って、こねて、発酵させて、オーブンレンジに入れた。それなのに焼き上がりは平たくて、皮は厚く、中はしっとりというよりべたついている——パン作…
空焼きが必要な型と、してはいけない型
フッ素樹脂加工の空焼きは、機能そのものを壊す
パン型を買ったら空焼きをする、という手順を聞いたことがある人は多いはずです。ところがこれは、すべての型に当てはまるわけではありません。むしろ材質によっては、空焼きが型を壊す行為になります。
その代表がフッ素樹脂加工です。刃物メーカーのFAQでは、フッ素樹脂加工は耐熱260度のため空焼きには向いていません。空焼きをするとフッ素樹脂が蒸発し、機能(こびりつかない)が失われてしまう危険性がありますと明記されています。せっかく型離れのために選んだ加工を、最初の準備段階で自分から失わせてしまうわけです。
ダイソーのケーキ焼型(スクエア)23cmは、まさにこのフッ素樹脂加工です。したがって、この型については空焼きは不要どころか、してはいけない準備になります。「新しい型は空焼きするもの」という思い込みで手を出す前に、材質を確認する習慣をつけてください。
「新しい型は空焼きする」という手順をフッ素樹脂加工の型に適用すると、こびりつかない機能が失われます。ダイソーのケーキ焼型(スクエア)23cmは炭素鋼100%+フッ素樹脂加工なので、空焼きせずそのまま洗って使うのが正解です。空焼きが必要なのは、加工されていない鉄やアルタイトの型です。
空焼きが必要なのは、鉄とアルタイト
では、空焼きが必要なのはどんな型かというと、加工のない鉄製とアルタイトです。鉄製品には機械油が付着しているため、洗浄の意味とメッキを丈夫にする意味で空焼きをします。つまり空焼きには「製造時の油を飛ばす」と「表面を強くする」という2つの目的があります。
アルタイトについても、アルスターとは、鉄にアルミメッキを施した鋼板で、はじめて使用する時は、必ず空焼きをおこなってくださいとメーカーが案内しています。「必ず」と書かれている以上、省略はできません。専用の食パン型を買ったときにこの手順が説明書に載っていたら、それはこの理屈によるものです。
ここを取り違えると2方向の失敗が起きます。空焼きが必要な型で省略すれば油のにおいが移り、加工の乗りも悪くなる。空焼きが不要な型でやってしまえば加工が壊れる。どちらも「材質を見る」というひと手間で防げます。
アルミ・ステンレス・シリコンは空焼き不要
残る3つの材質については、判断がシンプルです。材質にアルミニウム、ステンレス、シリコンゴムが使用されているものは空焼き不要です。理由も明快で、これらは鉄のように機械油が残る前提の素材ではなく、メッキを焼き締める必要もないからです。
ダイソーの3つの型に当てはめると、アルミパウンドケーキ型Sはアルミニウムなので不要。シリコーンパウンドケーキ型はシリコーンゴムなので不要。ケーキ焼型スクエアはフッ素樹脂加工なので、してはいけない。つまり、ダイソーで買える3つの型はいずれも空焼きせずに使い始められます。
これは代用型のわかりやすい利点でもあります。専用の食パン型を買うと、届いてすぐ焼けるわけではなく、空焼きという一手間が挟まります。ダイソーの型なら、洗って拭いてすぐ生地を入れられる。思い立った日に焼き始められることは、続けるうえで意外に大きな要素です。
洗い方も材質ごとに変わる
空焼きと同じく、洗い方も材質で分岐します。シリコーンパウンドケーキ型は食器洗い機に対応していて、油を塗る必要がなく、水で簡単に洗えます。最も手間がかからない材質です。
フッ素樹脂加工の型は、コーティングを守る洗い方が必要です。金属たわしや研磨剤入りのクレンザーは加工を削るため使えません。焦げついた場合も、こそげ取るのではなく、ぬるま湯につけて生地をふやかしてから落とすのが正解です。加工が剥がれると型離れが悪くなり、そこから一気に使いにくくなります。
アルミパウンドケーキ型Sは6枚入りの薄い型なので、使い切りとして扱うのが現実的です。無理に洗って再利用しようとすると、変形して次に使うときの焼き上がりがゆがみます。「洗って何度も使う型」と「1回で使い切る型」を分けて考えると、道具の管理がすっきりします。
代用の成否を分けるのは、生地量の調整
レシピの分量をそのまま入れると必ずあふれる
パウンド型で食パンを焼くときに最も多い失敗が、生地量の入れすぎです。パン生地の量そのままでは入り切らない可能性があるため、パウンド型を使用する場合は、分量の調整に注意することが重要とされています。
理屈は単純です。1斤型の容量は満水約1500ml。ダイソーのシリコーンパウンドケーキ型は21cm×9.5cm×6cmで、高さが1斤型に届きません。ここに1斤ぶんの生地を入れれば、二次発酵の段階ですでに縁からはみ出し、焼成中にさらに膨らんで天板に垂れます。オーブン庫内が焦げついて掃除に追われることになります。
対策は、型の容積に対して生地を入れる高さで決めることです。二次発酵で型の縁近くまで膨らみ、焼成でさらに一段伸びることを見越して、成形後の生地は型の半分より少し下までに抑えます。この目安を守れば、型からあふれる失敗はほぼなくなります。分量を計算で出そうとするより、「型に入れて見た高さ」で判断するほうが確実です。
実は、小さい型のほうが失敗しにくい
意外と知られていないのですが、パン作りを始めたばかりの段階では、大きい型より小さい型のほうが成功しやすくなります。パウンド型を使うメリットは「食べ切りサイズのミニ食パン」が作れることで、普通の食パンよりも少し小ぶりになりますが、その分火の通りが早く、初心者でも生焼けの失敗が少ないという特徴があります。
なぜかというと、パンの生焼けは「中心まで熱が届く前に表面が焼き上がってしまう」ことで起きるからです。生地の塊が大きいほど中心までの距離が長く、この時間差が広がります。小さい型なら中心までの距離が短いので、表面が色づく頃には中心にも熱が届いています。
つまり、専用型を買わずにダイソーの型で始めるという選択は、単なる節約ではなく、失敗しにくいほうから入るという合理的な順番でもあります。小さい型で「これが焼けた状態だ」という基準を体で覚えてから大きい型に移るほうが、判断の物差しができています。生焼けの見分け方については下記の記事で詳しく整理しています。

型の準備は材質しだいで手間が変わる
生地を入れる前の準備も、材質によって必要な作業が違います。シリコーン製は油を塗る必要がないので手軽に使用でき、軽くて使いやすいです。変形させることができるため、型外れしやすいのがポイントです。つまりシリコン型なら準備はほぼゼロです。
アルミ型も、アルミ型は熱伝導が高いため、焼き上がりがきれいに仕上がり、型離れもいいので、油脂を塗る手間もありません。フッ素樹脂加工のスクエア型も、表面フッ素樹脂加工で焦げ付きにくく、型からはがれやすい構造です。ダイソーの3つは、いずれも油を塗る前提の型ではありません。
ここが専用型との差になります。スチール製のアルタイト型は油を塗る手間があります。プロ用の型ほど下準備が要るというのは、道具としては当然の話です。裏を返せば、ダイソーの型は「準備の手間を材質でカバーしている」道具だと言えます。ただし、心配なら薄くオイルを塗るかクッキングシートを敷いても問題はありません。
牛乳パックや紙コップでの代用は避ける
「型を買わなくても牛乳パックで代用できる」という話を目にすることがあります。しかしこれは避けるべき方法です。型を代用する際はポリエチレンが含まれている牛乳パックや紙コップなどは避けるべきとされています。
理由は材質です。牛乳パックの内側は防水のためにポリエチレンでコーティングされていて、これは高温で焼くことを想定した素材ではありません。紙コップも同様です。オーブンの温度に耐える設計になっていないものを庫内に入れるのは、単純に危険です。
110円で耐熱性が保証された型が手に入る以上、あえてリスクを取る理由がありません。「家にあるもので代用する」より、「安い専用道具で代用する」ほうが安全でも結果でも上回ります。スクエア型のケーキ焼型は耐熱温度240℃、シリコン型は耐熱温度230℃と、いずれも明記された耐熱性能を持っています。これが道具として買う価値の中身です。
ダイソーの型で焼くときによくある疑問
電子レンジや食器洗い機は使えるのか
材質ごとに対応が分かれます。シリコーンパウンドケーキ型(21cm)はオーブン対応・レンジ対応・食器洗い機対応と、3つすべてに対応しています。耐冷温度が-30℃なので冷凍もできます。焼いたパンを型ごと冷凍して、後で解凍するという使い方も可能です。
アルミパウンドケーキ型Sはオーブンレンジ対応と表示されています。ただしアルミという材質の性質上、電子レンジのマイクロ波を使う加熱には向きません。オーブン機能で使うものと考えてください。ケーキ焼型スクエアは炭素鋼なので、こちらも金属製として扱います。
迷ったときは、購入時のパッケージ表示か公式オンラインストアの商品ページを確認するのが確実です。表示のない使い方をして型を傷めたり、庫内でトラブルを起こしたりするのは避けたいところです。特に金属型とレンジの組み合わせは、材質表示を必ず見てから判断してください。
1つの型で何回くらい焼けるのか
これも材質で変わります。シリコン型は耐熱性、耐凍性があり、型離れも良くお手入れも簡単なので、丁寧に使えば長く持ちます。切れ目や破れが入らない限り、性能が落ちる要素が少ない材質です。
フッ素樹脂加工のスクエア型は、加工の寿命が使用回数を決めます。フッ素加工は次第に剥がれてくることがあり、あまり長くは使えません。剥がれてくると型離れが悪くなり、パンの側面が引っかかるようになります。この症状が出たら買い替えの合図です。
アルミパウンドケーキ型Sは6枚入りという構成からわかるとおり、繰り返し使う前提ではありません。やわらかいため焼く前に指で強く持つと変形してしまう性質もあり、1回ずつ使い切るのが素直な使い方です。「消耗品」「加工品」「耐久品」と3つの型の位置づけが違うと理解しておくと、無駄な買い替えも無駄な我慢も減ります。
専用の食パン型に買い替えるのはいつがいいか
買い替えのタイミングは、自分の不満がどこにあるかで判断できます。「焼き色がもっと欲しい」と感じたら、熱伝導の高い材質へ。スチールにアルミメッキしたアルタイトは熱まわりが良く均一に熱が伝わるため、焼けムラなどが起きにくく、業務用に主に使われているパン型です。
「四角い形にしたい」と思ったら、蓋つきの専用型です。これは代用では絶対に埋められない差なので、形にこだわりが出た時点で買う理由があります。「1斤まるごと焼きたい」なら、容量が満水約1500mlある1斤型か、満水約2600mlある1.5斤型を選びます。
逆に、これらの不満がないうちは代用型で十分です。専用の1斤用型は1,500円~2,000円ほどしますが、それに見合う理由が自分の中にできてから買えばいい。道具は不満が生まれてから買うと、選ぶ基準がはっきりしているので失敗しません。パン作りの道具全般に言えることですが、先に買い揃えるより、必要になった順に足していくほうが結果的に無駄が出ません。
食パン型をダイソーで探すときのまとめ
ダイソーの型で食パンを焼くときに押さえるべきことは、材質・空焼き・生地量の3つに集約されます。材質を見れば焼き色の出方が予測でき、空焼きの要否も同時に決まります。あとは型の容積に対して生地を入れすぎないこと。この3点さえ守れば、110円~330円の型でも十分にパンは焼けます。最初の一歩としては、6枚入りで110円のアルミパウンドケーキ型Sを買って、手持ちのレシピの生地を型の半分より少し下まで入れて焼いてみるところから始めるのが確実です。6枚あるので、1回目の結果を見て2回目の生地量を調整できます。
※商品の価格・仕様・取り扱い状況は変更される場合があります。購入前に各商品の公式ページやパッケージ表示でご確認ください。

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