うどんの材料は、粉と塩と水の3つだけです。それなのに家で打つと「生地がまとまらない」「延ばすと縮む」「ゆでたら切れた」「コシがない」と結果が割れます。材料が少ないぶん、比率のわずかな違いと扱い方の差が、そのまま麺の食感に出てしまうからです。
先に結論を書くと、さぬきうどんの作り方で押さえるべきなのは次の4点です。粉は中力粉を選ぶこと、塩水は季節で濃さを変えること、水回し(水を粉に行き渡らせる作業)を一気に済ませること、そして足踏みと熟成で生地を休ませることです。手順を丸暗記しても再現できないのは、この4つが「なぜそうするのか」とつながっていないからです。
この記事では、香川県が公開している手打ちうどんの工程と配合、製粉業界が公開している小麦粉の指標をもとに、さぬきうどんの作り方を数字と理屈で整理します。粉の選び方から塩水の季節調整、足踏みと熟成の見極め、ゆで方、いりこだしとかえしまで、失敗の原因ごとに順番に見ていきます。
・「さぬきうどん」と名乗る条件が塩分3%以上・加水率40%以上という数字で決まっていること
・中力粉8〜10.5%と灰分0.30〜0.35%という、粉選びで見るべき2つの指標
・春秋・夏・冬で塩と水を変える理由と、粉400gあたりの具体的な配合
・足踏み3〜5分と熟成3〜4時間が、コシ(弾力)を生む仕組み
さぬきうどんの作り方は、3つの数字を押さえるところから始まる

レシピを探すと、粉の量も水の量も、こねる時間も少しずつ違う情報が出てきます。どれが正しいのか迷うところですが、判断の基準になる数字はすでに公開されています。まずはその輪郭から押さえます。
「さぬきうどん」と名乗る条件は、味ではなく数字で決まっている
さぬきうどんとして扱われるための条件は、塩分3%以上、加水率40%以上を満たすこと、そして香川県産小麦粉を使用することが推奨される、というものです(香川県観光協会公式サイト)。いずれも小麦粉の重量に対する比率で、味の表現ではなく計測できる数字で示されている点が特徴です。
なぜ数字で決まっているかというと、この2つが麺の食感を直接左右するからです。加水率が下がれば生地は締まってぼそつき、塩が足りなければグルテンが十分に締まらず、ゆでたときに伸びやすい麺になります。家庭で「レシピ通りにやったのにコシが出ない」となる原因の多くは、粉に対する水と塩の割合が基準から外れていることにあります。
ですから、レシピを見るときは分量をそのまま覚えるのではなく、「粉100に対して水と塩がいくつか」に読み替えて比べてください。この読み替えができると、粉の量を増減しても配合が崩れなくなります。
コシとは硬さではなく弾力のこと。ここを取り違えると失敗する
さぬきうどんの説明で必ず出てくる「コシ」は、噛み切れない硬さのことではありません。讃岐うどんのコシは口に入れた際に柔らかく、噛むともちもちとしているのが特徴で、この独特のコシは生地の加水量の多さと、足踏み作業によって引き出されるグルテンの弾力から生まれる、と説明されています。つまりコシ=弾力であって、コシ=硬さではありません。
この取り違えが起きると、作り方の方向がまるごとずれます。硬さを目指すと「水を減らす」「強力粉を使う」という選択になりますが、どちらも弾力を減らす方向の操作です。加水量が多い生地を、時間をかけて鍛えて休ませるからこそ、もちもちした弾力が出ます。
実際に食べ比べると違いは明らかで、水を減らして硬くした麺は、噛んだときに戻ってくる力がありません。目指すのは「押すと返ってくる」麺です。作業中も、生地を指で押して跳ね返る感触があるかを確認しながら進めると、方向を間違えずに済みます。
麺の見た目には、工程の良し悪しがそのまま出る
できあがった麺を見れば、工程がうまくいったかどうかはある程度わかります。仕上がりの目安は、つややかで透き通るように白く、包丁で1本1本切った麺の断面が少し凹んですっと角が立っている状態です。食感はもちもちとした弾力がありながら、しっかりした歯応えを感じる強いコシと、なめらかなのど越しが特徴とされています。
角が立つのは、生地が均一に締まっていて、切ったときに断面が崩れないからです。逆に断面が丸まって角が消えている麺は、水回しにムラがあるか、熟成が足りずに生地がだれている可能性が高くなります。つやのない白っぽさやくすみは、粉の灰分(後述)か、打ち粉が残りすぎていることが原因になります。
白さについては、灰分0.30〜0.35%の低灰分小麦粉を使用すると、つやのある白い麺になると説明されています。見た目が思ったようにならないときは、手順を疑う前に、まず粉の種類を確認するほうが早い場合があります。
| 分類・発祥 | 香川県(旧讃岐国)発祥の太めのうどん |
| 名乗る条件 | 塩分3%以上、加水率40%以上(香川県産小麦粉の使用が推奨) |
| 麺の性質 | 他のうどんと比べて太い/つやのある透き通るような白/断面は少し凹んで角が立つ |
| 代表的な食べ方 | 釜玉うどん、かけうどん、ざるうどん、釜あげうどん、しっぽくうどん |
粉選びで、麺の白さとコシの方向は先に決まっている
作業を始める前に決着がついてしまう要素があります。それが小麦粉です。同じ手順を踏んでも、粉が変われば別の麺になります。見るべき指標は2つ、タンパク質量と灰分です。
中力粉8〜10.5%が基本。強力粉だと硬くなりやすい理由
うどんの基本になるのは中力粉です。中力粉は8〜10.5%のタンパク質量で、弾力と滑らかさを両立できるバランスの取れた粉とされ、讃岐うどん向けにはそのなかでも8.5〜10%が推奨されています。
強力粉はタンパク質量が11〜13%以上あり、グルテンの形成が過剰になるため、うどんが硬くなりやすくなります。前の章で書いたとおり、目指すのは硬さではなく弾力なので、タンパク質が多ければ多いほど良いという話にはなりません。逆に薄力粉はタンパク質が少なすぎて、コシが弱い麺になります。
家庭でありがちな失敗が、「パン用の強力粉が余っているから」とそのまま使ってしまうケースです。生地は締まってこねやすく感じますが、ゆで上がりは噛み切りにくく、弾力の戻りが乏しい麺になります。製粉会社が公開している家庭向けの手打ちうどんの配合には、強力粉250gと薄力粉250gを合わせて塩15g・水230cc(加水率46%)とするものもあり、これは中力粉が手に入らないときに中間のタンパク質量を作る発想です。
粉の分類そのものを整理しておきたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。

スーパーの製菓材料コーナーに並ぶ小麦粉の袋。強力粉、薄力粉、中力粉、さらに「フランスパン用」「全粒粉」と書かれた袋もあって、どれを買えばいいのか迷ったことはあり…
見落とされがちな「灰分」が、白さと風味を左右する
タンパク質量ほど注目されませんが、うどんの見た目を決めるのは灰分です。灰分が0.30〜0.35%の低灰分の粉ではクリーム色でつやのある麺になり、灰分が高くなるとグレーから茶色っぽい麺になります。
灰分は風味と食感にも影響します。低灰分の粉は軽い麦の味と滑らかな口当たりになり、灰分0.40〜0.50%の粉はナッツのような深い風味と鉱物味が出て、ざらついた食感になります。市販の粉の等級でいうと、Grade1が灰分0.35〜0.45%、Grade2が0.45〜0.65%、うどん用としてよく使われるオーストラリア産のASWが0.35〜0.40%という位置づけです。
つまり「店で食べるような、つやのある白い麺にならない」という悩みは、こね方ではなく粉の等級が原因のことがあります。白さを優先するなら灰分0.30〜0.35%、麦の風味を出したいなら灰分の高い粉、と目的から逆算して選ぶのが近道です。
灰分とは、小麦粉を高温で燃やしたときに残る鉱物質のこと。小麦の外皮や胚芽に多く含まれるため、粉の精製度を示す指標として使われます。数値が低いほど白くつやのある麺になり、高いほど色が濃く、風味は深くなる代わりにざらついた口当たりになります。
「さぬきの夢2000」を使うときは、水の量を控えめに考える
香川県産の中力粉として知られるのが「さぬきの夢2000」です。タンパク質は中程度ですが灰分が低く、強い甘味と香りがあるのが特徴で、濃い麦の風味を出したいときに使われます。県産粉を使うこと自体がさぬきうどんの条件でも推奨されています。
ただし、この品種はタンパク質が低めなので、他の中力粉と同じ感覚で水を入れると生地がゆるみます。目安として、冬場でも加水量は47〜48%程度、塩濃度は13%程度に調整するとされています。つまり「冬だから水を多めに」という一般則を、そのままは適用しません。
実際に県産粉に切り替えて生地がべたつくようになった場合は、こね方を変える前に加水率を見直してください。粉には吸水の個性があり、同じ加水率でも生地の締まり方が変わります。袋に記載された推奨配合があれば、それを出発点にするのが確実です。
コシを強めたいときは、中力粉に強力粉を混ぜる
市販の中力粉で作ったときに「もう少し弾力がほしい」と感じることがあります。そのときの調整方法が、中力粉70〜80%に強力粉20〜30%を混ぜるブレンドです。これで強いコシの讃岐うどんが作れるとされています。
理屈は単純で、全体のタンパク質量を中力粉の上限寄りに引き上げているだけです。強力粉だけでは硬くなりすぎ、中力粉だけでは弾力が物足りないとき、その間の値を自分で作るという発想になります。
注意したいのは、混ぜる比率を上げるほど生地が締まって延ばしにくくなることです。強力粉の割合を増やすときは、こねる力と延ばす手間が増えることを前提にしてください。まずは中力粉だけで一度打ってみて、仕上がりを見てから比率を決めるほうが、原因の切り分けがしやすくなります。
塩と水を季節で変えるのは、気温が生地を変えてしまうから

うどんの配合表が季節ごとに分かれているのを見て、大げさだと感じるかもしれません。しかし、これは味の好みの話ではなく、生地の温度管理の話です。
粉400gあたりの季節別配合を一枚で押さえる
香川県が公開している手打ちうどんの作り方では、手打ちうどんの加水率の基本は50%とされ、季節ごとに塩と水の量が振り分けられています。小麦粉400gを基準にすると、春・秋は塩23gと水169cc(加水率48%)、夏は塩24gと水164cc(加水率47%)、冬は塩22gと水174cc(加水率49%)です。
数字を並べると、夏がいちばん塩が多くて水が少なく、冬がいちばん塩が少なくて水が多い、という関係が見えます。差そのものは大きくありませんが、生地全体で見ると締まり方がはっきり変わります。
実際に季節を無視して同じ配合で打つと、夏はべたついて延ばすときにくっつき、冬は締まりすぎて延ばすときに縮みます。作業のしにくさが季節で変わったら、腕ではなく配合を疑ってください。
| 項目 | 春・秋 | 夏 | 冬 |
|---|---|---|---|
| 小麦粉 | 400g | 400g | 400g |
| 塩 | 23g | 24g | 22g |
| 水 | 169cc | 164cc | 174cc |
| 加水率 | 48% | 47% | 49% |
| 塩水の濃度 | 12% | 13% | 11% |
夏に塩を増やして水を減らすのは、生地を引き締めるため
季節で配合を変える理由ははっきりしています。夏場に塩を多くして水を減らすのは、塩がグルテンを強化し、温度上昇で柔らかくなりやすい生地を引き締めるからです。逆に冬は生地が締まりやすいので、塩を控えて水を増やし、扱いやすい硬さに戻します。
ここで効いているのは室温だけではありません。水温、粉の温度、作業台の温度、こねている間の手の熱まで、生地の温度に関わる要素はいくつもあります。同じ配合でも、暑い台所で長く作業すればそのぶん生地はゆるみます。
やりがちなのが、夏に生地がべたつくからといって、その場で粉を足してしまうことです。粉を足すと配合の比率が崩れ、加水率も塩分も下がって、コシの弱い麺になります。べたつく前提で、最初から夏の配合にしておくほうが確実です。正確な測定がおいしいうどんの条件であり、推測ではなく計測してくださいと繰り返し言われるのは、この修正が後から効かないからです。
粉1kgで仕込むときは、塩水の濃度で覚えると早い
まとまった量を打つときは、塩水をあらかじめ作っておくやり方が便利です。小麦粉1kgに対して、春・秋は塩60gと水440g(塩濃度12%)、夏は塩70gと水430g(塩濃度14%)、冬は塩50gと水450g(塩濃度10%)が目安になります。
この覚え方の利点は、粉の量が変わっても濃度で管理できることです。塩を先に水へ完全に溶かしてから粉に加えるので、塩の粒が残って一部だけ塩辛くなる、という事故も防げます。
注意点は、塩が溶けきる前に使わないことです。冷たい水では塩が溶けにくく、底に沈んだまま注ぐと、粉に届く塩の量が想定より少なくなります。仕込みの前に用意しておき、透明になったのを確認してから使ってください。
実は、加水率の数字には塩の重さも含まれている
ここで、多くの人がつまずくポイントを1つ。粉400gに水169ccなら、単純に割ると加水率は40%台前半のはずなのに、表では48%と書かれています。矛盾に見えますが、これは加水率を「塩水全体の重さ」で数えているためです。
塩23gと水169ccを合わせた塩水の重さを、粉400gで割ると48%になります。夏や冬の数字も同じ計算で成立します。1kgの配合が塩60g+水440gで加水率50%になるのも、塩を含めた塩水の重さが基準だからです。
この読み方を知らないと、「加水率50%」と書かれたレシピを水だけで50%と解釈してしまい、実際より多い水を入れることになります。生地がゆるくて延ばせない、という失敗の典型的な原因がここです。レシピを見るときは、加水率が塩を含む数字かどうかを確認してください。
水回しでうどんの良し悪しが決まる、と言われる理由
粉に塩水を混ぜる工程を、水回し(手合わせ)と呼びます。時間としては短い作業ですが、ここでの分配ミスは後の工程では取り返せません。
水和とは、粉の粒ひとつひとつに水が届くこと
水和とは、小麦粉の粒子に水が行き渡って浸透することを指します。塩水と小麦粉が出会う瞬間から、グルテンの形成が始まります。つまり、こね始めてからグルテンを作るのではなく、水が触れた場所から順に始まっているということです。
だからこそ、水が届いた場所と届いていない場所の差が、そのまま生地のムラになります。水の加え方にムラがあると、小麦粉全体で均質にグルテンが形成されず、生地にむらが生じます。
職人の間では「手合わせ(水回し)でうどんの良し悪しは決まる」と言い伝えられています。伸ばす技術やゆで方より前に、この段階で仕上がりの上限が決まる、という意味です。作業台に向かったら、まずここに集中してください。
水和とは「小麦粉の粒子に水が行き渡って浸透すること」。塩水と小麦粉が出会った瞬間からグルテンの形成が始まるため、水回しは「混ぜる作業」ではなく「グルテンを作り始める作業」にあたります。水は粉全体に浸透させる役割、塩はそのグルテンを強化する役割と、担当が分かれています。
塩水は一気に注いで、素早く散らす
加水のときに重要なのは、小麦粉全体に水を素早く散らすことです。加水の半分ずつをゆっくり注ぐ方法は推奨されておらず、一度に注いで素早くかき回すほうが良いとされています。
理由は前項のとおりで、水が触れた場所からグルテンができ始めるからです。少しずつ注ぐと、最初に濡れた部分だけ先にグルテンが進み、後から水が届いた部分との差が開きます。先に固まった塊が残り、あとから混ぜても均一にはなりません。
作業としては、塩水を回しかけたら、指を広げて粉をすくい上げるように混ぜ、水の筋を作らないようにします。目標は、生地をひとつにすることではなく、全体がそぼろ状になることです。粒の大きさがそろってきたら水和は進んでいます。この段階では押し固めず、混ぜることに徹してください。
グルテニンとグリアジン、そして塩の役割
グルテンは、性質の違う2つのタンパク質からできています。グルテニンは硬く、引っ張ると力強い抵抗を示すタンパク質。グリアジンは柔らかく、伸縮性に富むタンパク質です。この相反する性質がこねる過程で結びつき、弾力と伸びを兼ね備えた「うどんの骨格」を作ります。
ここに塩が加わると、骨格はさらに締まります。塩水を加えてこねると、グルテン組織は水だけでこねたときよりも強力に、しっかりと形成されます。うどんの塩は味付けのためだけに入っているわけではない、ということです。
そして、この骨格の意味はゆでたときにわかります。よく鍛えられたグルテンは、ゆでると約5.5倍に膨潤する澱粉粒を麺の中にしっかりと抱きかかえ、自らも弾力のある物性を示します。膨らんだ澱粉を包み込む網が弱ければ、麺は膨らむ力に負けて崩れます。コシとは、この抱え込む力のことだと考えるとわかりやすくなります。
失敗パターン①:水がムラになった生地は、後から直せない
水回しでムラが出ると、生地の中に硬い塊と粉っぽい部分が同居します。この状態でこねても、内部の差は解消されません。延ばす段階で厚みが不均一になり、切った麺は断面の角が丸まり、ゆでたときに切れやすくなります。
ムラが起きる原因は3つに絞られます。塩水を少しずつ注いだこと、注ぐ位置が偏ったこと、混ぜるスピードが遅かったことです。いずれも「一気に注いで素早く散らす」で回避できます。
見分け方は、そぼろ状になった段階で粒の大きさをチェックすることです。大きな塊と粉が混在していたら水が偏っています。粉が残っている部分に水を足したくなりますが、そこで水を追加すると配合が崩れます。塊を指で崩して全体に散らし、水分をならすほうが被害は小さく済みます。
次に打つときのために、うまくいかなかった原因を1つに絞って記録しておくのがおすすめです。配合・混ぜ方・室温のどれを変えたのかがわからないと、改善のしようがありません。
足踏みと熟成が、コシという弾力をつくっている
そぼろ状になった生地を、麺にできる状態まで育てるのがこの工程です。香川県が公開している工程では、混ぜから茹でまでが10の段階に分けて説明されています。
まとめ方と鍛え方には順番がある
そぼろ状の生地は、まずバラバラの固まりをひとつにして、厚さ1cmに整えます。次に生地をロール状に巻き直して、グルテンを形成します。ここまでが「鍛え」の前半です。
そのあと3つ折りにして厚さ2cm程度にし、足踏みに入ります。巻き直しと折りたたみを挟むのは、生地の向きを変えながら力を加えるためです。同じ方向にだけ力を加えると、グルテンの網も一方向に偏り、延ばすときに縮みやすい生地になります。
この段階で生地がボロボロして1つにならない場合は、水回しの水分が足りていない可能性が高くなります。ただし、ここで水を追加すると加水率が変わってしまうので、まずは体重をかけて押し固め、それでもまとまらないときだけ次回の配合を見直してください。生地は押しているうちに、時間とともにつながってきます。
足踏みは3〜5分。回数の目安は最低3回
足踏み工程は讃岐うどん製法の基本で、3〜5分程度、座布団状になるまで踏みます。生地を折り込んで最低3回、より弾力を出すには5〜6回の踏み込みが推奨されています。
足で踏むのは、手のこねでは届かない力を、生地全体に均等にかけられるからです。加水率が50%近い生地は手で押しても中心まで力が伝わりません。体重をかけることで、内部のグルテンまで確実に鍛えられます。
踏むときのコツは、一点に体重をかけ続けないことです。かかとで一部だけを潰すと、そこだけ薄くなって残りが鍛えられません。つま先からかかとへ体重を移しながら、生地の端まで均等に踏んでください。折りたたむたびに向きを90度変えるのも、偏りを防ぐためです。
熟成は冬3〜4時間、夏2〜3時間。18〜20℃が理想
踏み込みのあとの熟成が、この工程でもうひとつの山場になります。冬場は3〜4時間、夏場は2〜3時間程度休ませることで、グルテン構造が緩和され、より弾力性が増すとされ、理想的な熟成温度は18〜20℃です。
踏んだ直後の生地は緊張していて、延ばそうとしても縮んで戻ります。時間を置くとグルテンの張りがゆるみ、同じ力で薄く延ばせるようになります。「鍛えてから緩める」という2段構えが、弾力と延ばしやすさを両立させる仕組みです。
夏の休ませ時間が短いのは、気温が高いと熟成が進みすぎるからです。放置しすぎた生地はだれてベタつき、切った麺がくっつきます。夏は涼しい場所に置き、冬は寒すぎる場所を避ける、と考えると管理しやすくなります。玉にする前の短い休ませとして、丸くまとめて5〜10分置く工程も別にあり、これは長時間の熟成とは目的が違います。
失敗パターン②:踏み足りない生地と、休ませすぎた生地
踏みが足りない生地は、延ばすと真ん中が薄くなり、端が厚いまま残ります。逆に熟成させすぎた生地は表面がべたつき、打ち粉をいくら振ってもくっつきます。前者はゆでたときに切れ、後者は麺がだんごになります。
踏み足りているかの判断は、機械製麺の熟成の目安が参考になります。生地表面を押して素早く戻る状態が、成熟している状態とされています。押した跡がそのまま残る生地は、まだ鍛えが足りないか、休ませすぎて弾力が抜けています。
手打ちでも同じで、押して戻る感触があれば延ばしの工程に進めます。時間だけで判断せず、必ず指で確認してください。特に季節の変わり目は、前回と同じ時間で置いても状態が変わります。
なお、機械での製麺では熟成が2段階に分かれており、第1次熟成では生地を幅広い帯状にして一定時間寝かせ、圧延後の第2次熟成も重要とされています。家庭では1回の熟成で済ませますが、「延ばす前後で休ませる」という考え方は同じです。
延し・切り・ゆでは、道具より段取りで差がつく
ここまで来れば残りは形にする作業です。ただし、打ち粉の選び方とゆでる湯の量という、地味ですが結果を左右する要素が2つあります。
厚さ3mmまで、四方向から巻き延ばす
熟成が終わった生地は、丸くまとめて5〜10分休ませてから、麺棒で厚さ2cm程度に平たくします。そこから4方向に巻き延ばして、厚さ3mm程度まで薄くしていきます。
4方向から延ばすのは、生地を正方形に近づけるためです。1方向にだけ延ばすと生地は楕円になり、端の薄い部分と中央の厚い部分ができます。麺の太さがそろわないと、ゆで時間もそろわず、同じ丼の中に硬い麺と柔らかい麺が混ざります。
コツは、麺棒に生地を巻きつけて転がすたびに、生地の向きを変えることです。手で押し延ばすより力が均等に伝わり、厚みが安定します。延ばしている途中で生地が縮んで戻るときは、熟成が足りない合図なので、数分置いてから再開すると楽になります。
打ち粉に片栗粉を使うのは、生地に吸われないから
打ち粉とは、手や麺棒、作業台に生地がくっつくのを防ぐための粉です。手打ちうどんでは片栗粉を使うのが推奨されています。
小麦粉を打ち粉に使うと、生地の材料のほとんどが小麦粉であるため、どんどん生地に吸収されてしまい、結局ベタベタしてしまいます。一方、片栗粉は馬鈴薯澱粉で生地への親和性が低く、生地に入り込まずに麺の表面に留まります。同じ粉どうしは馴染んでしまうので、あえて性質の違う粉を選ぶ、という考え方です。
注意点は、振りすぎないことです。表面に残りすぎた打ち粉は、ゆで湯を濁らせ、麺の表面をぬめらせます。切ったあとに麺を広げてほぐし、余分な打ち粉を落とす工程が入っているのは、このためです。
片栗粉と馬鈴薯澱粉の関係については、こちらで整理しています。

3〜4段に折り、3mm幅で切りそろえる
延ばした生地に打ち粉をして、3〜4段に折り、3mm幅で均等に切ります。厚さ3mmで幅3mmに切れば断面はほぼ正方形になり、ゆでたときに角の立った麺になります。
幅が不ぞろいになる主な原因は、包丁を引く方向がぶれることと、折った生地の段が動くことです。折り目を軽く押さえ、包丁は前に押し出さず、真下に下ろすように切ると幅が安定します。
切り終えたら、麺を広げてほぐし、打ち粉を落とします。この作業を省くと、束のままゆで湯に入って中心までほぐれず、外だけ柔らかく中が芯のまま、という結果になります。切ったあとの数十秒の手間が、ゆで上がりの均一さを決めます。
ゆでる湯は麺100gに対して水1リットル
ゆで時間は、たっぷりのお湯でゆでることが前提です。うどん100gに対して水1リットルが基本で、ゆで時間は12〜15分。釜あげうどんにする場合は約13分が目安になります。
湯の量が重要なのは、麺を入れた瞬間の温度低下を防ぐためです。少ない湯に麺を入れると温度が下がり、再沸騰するまでの間に麺の表面が溶け出します。湯が糊っぽくなり、麺どうしがくっつく原因になります。
また、うどんの生地には塩が入っているため、ゆでる過程で塩が湯へ抜けていきます。湯が少ないと塩分濃度が上がり、抜けにくくなって塩辛い麺になります。鍋はできるだけ大きいものを使い、麺を入れたら軽くほぐしてください。
ゆで上がりの確認は、時間だけでなく1本食べてみるのが確実です。中心に白い芯が残っていないかを見ます。乾麺や冷凍麺の1人前の量とは基準が違うので、手打ち麺は自分でゆでた分量を記録しておくと次回が楽になります。

だしと食べ方まで含めて、さぬきうどんの作り方は完成する
麺が打てたら、次はつゆです。讃岐が日本を代表するうどんの産地になった背景には、温暖で降水量の少ない気候が良質な小麦の栽培に適していたことに加えて、瀬戸内海産の良質な塩と、いりこ(煮干)という出汁の材料に恵まれていたことがあると説明されています。麺とだしはセットで発達してきました。
いりこだしは、下ごしらえで味が決まる
いりことは、瀬戸内地方での煮干イワシの総称です。イノシン酸という旨み成分が豊富で、讃岐うどんのだしの主役になります。特に伊吹島産が知られています。
下ごしらえとして、頭と黒い内臓部分を取り除く必要があります。ここを省くと、えぐみと苦みがだしに出ます。頭や内臓を取ったいりこを水またはぬるま湯で丁寧に洗ってから、火にかけて出汁を取ります。
基本的な手順は、昆布を30〜60分水に浸してから火にかけ、沸騰前に昆布を取り出し、いりこを加えて15〜20分煮出します。いりこを取り出したあと、さば節などを追加して10〜15分煮出し、最後にかつお節を加えます。昆布は黒く厚みのある良質なものを一晩水に浸し、臭みが出る前に取り出して弱火で煮ると、雑味のないだしになります。
かえしは濃口醤油5に対して砂糖1、本みりん1
だしと合わせる調味液がかえしです。基本配合は、濃口醤油5に対して砂糖1、本みりん1の割合になります。この配合を覚えておけば、量を増減しても味が崩れません。
かえしには3つのタイプがあります。本かえしは、すべての材料を80℃で加熱し、5分煮詰めてから冷まし、1〜2週間寝かせると風味が出ます。生かえしは醤油を加熱せず、最も香りが強く仕上がります。半生かえしはその中間で、バランスの取れた風味になります。保存は冷蔵庫で、1ヶ月以内に使い切ってください。
注意したいのは、かえしと合わせるだしの濃さです。かえしは味が濃いため、それに負けない濃いだしと組み合わせる必要があります。厚く削った削り節を20〜40分かけて煮出しただしが向いています。だしが薄いと、醤油の角だけが立ったつゆになります。
釜玉・かけ・ぶっかけ、食べ方で麺の顔が変わる
同じ麺でも、食べ方によって印象は変わります。かけうどんは最も基本的な食べ方で、温かいだし汁をかけたもの。讃岐うどんのコシとなめらかな食感の両方を感じられます。
ぶっかけうどんは、冷たい濃いつけ汁を直接かけるもので、麺の冷たさとコシを引き立てます。温かいつけ汁をかける温かいぶっかけもあります。釜あげうどんは、沸騰したお湯から直接すくい上げた熱いうどんで、流水を通さないためもちもちした食感が残ります。釜玉うどんは、その釜あげうどんに生卵を混ぜたもので、讃岐うどんの代表的な食べ方です。
季節で選ぶなら、夏は冷たく冷やしてざるやせいろに盛り、つけ汁で食べるざるうどん、冬は野菜や油揚げが入るしっぽくうどんという選択肢もあります。打ちたてを最初に食べるなら、麺の状態がそのまま出る釜あげか、余計な要素が入らないかけうどんが向いています。
香川で約700軒という数字が意味すること
香川県内のうどん店は約700軒あり、これは全国平均の2.4倍にあたります。香川県民のうどんへの年間支出も全国で最も多いとされています。
この密度が意味するのは、店ごとに麺の個性が違い、それが日常的に比較されているということです。同じ「さぬきうどん」でも、粉の配合も熟成時間もゆで加減も店で違います。だからこそ、家庭で打つときも「唯一の正解」を探すより、自分の台所の温度と使う粉に合わせて調整する発想が合っています。
実際、この記事で挙げた数字はすべて幅を持っています。足踏み3〜5分、熟成3〜4時間、ゆで12〜15分。幅の中でどこを選ぶかが、その人のうどんになります。まずは中央値で1回打ってみて、仕上がりを見てから寄せていくのが現実的な進め方です。
まとめ:粉・塩水・水回し・熟成の順に整えれば再現できる
最初の一歩としておすすめなのは、粉400gの季節配合をそのまま量って1回打ってみることです。目分量をやめて計量から始めるだけで、次に何を変えればいいかが見えてきます。うまくいかなかったときも、配合・水回し・熟成のどこでつまずいたかを1つに絞って記録しておけば、2回目は確実に近づきます。粉の性質と気温は毎回違うので、数字は出発点として使い、最後は押して戻る生地の感触で判断してください。
※小麦粉の推奨配合や吸水は商品によって異なります。使用する粉の袋に記載がある場合は、そちらの表示を優先してください。

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